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2013年1月14日 (月)

「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」と「瀬尾試算」

 核分裂生成物が原子炉から放出された場合の死亡・障害者の人数及び物的・人的損害額について、政府と瀬尾健教授が試算をしていました。

 まず政府試算から見ましょう。この報告書は、科学技術庁が日本原子力産業会議に委託した「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」としてまとめられたものです。作成は1960年、公開は1998年で国立国会図書館などに所蔵されています。

 本調査の目的は、以下の通りです。

 ①原子力災害補償の参考にすること。 ②大型原子炉を想定し、種々の条件下における事故の可能性及び物的・人的損害を理論的に解析すること。 ③近い将来わが国に設置される大型原子炉に何らかの原因により大事故が生じた場合、公衆に対して(人数や金額で言って)どれくらいの損害が生じるかを掴むこと。 

 本試算の前提は、以下の通りです。

 非常に悪い場合を取り上げているが、評価はむしろ過少評価と言える。その理由として、1つには、人体障害の評価において晩発性障害や遺伝障害を損害試算の基礎において無形財産等を除外(ものぐさ 晩発性障害等を除外ということか?)。2つには、人体障害の評価において健康な成人を対象(ものぐさ 慢性病患者は放射能に対する影響が強い?)としたことや損害試算の基礎において家計財産や土地面積を過少評価した。原子炉施設及び従業員等は損害額に入っていない。

 人的損害と物的損害額の両方が記述されていますが、今回は、死亡・障害者数に着目します。試算算出における各種条件のうち、損害額が最も大きくなる条件で算出したもののみ取り上げます。

 試算の基礎となった各種条件は以下の通りです。

 ①原子炉の熱出力は「50万kw(電気出力16万kw相当)」。 ②原子炉内核分裂生成物は「5×10の8乗キューリー=1,850京ベクレル」。 ③放出放射能は「37京ベクレル、全内蔵放射能の2%相当」で短時間放出。 ④敷地として確定している東海村及び近い将来の候補地と目されている数地点の調査結果を一般化して仮想的な敷地を想定した。原発から20km、120kmのところにそれぞれ人口10万、600万の都市があること。 ⑤気象条件は風速2m/秒、大気には逆転層が存在し、上下の空気の入れ換えがなく放射能雲が拡散しない場合で風は大都市に向かう。

 政府試算による被害想定は、死亡540人、障害2900人、要観察400万人でした。

 参考までに人的・物的損害額の最大は、雨が降った場合で、3兆7000億円に達する(1960年当時の大卒初任給は16,000円)。

 次に、瀬尾教授の試算を見てみます。詳しくは「瀬尾健著 原発事故 1995年第1刷発行」を読んでください。

 試算の基礎となった各種条件は以下の通りです。

 ①原子炉の電気出力は100万kw。 ②原子炉内核分裂生成物は11,577京ベクレル」。 ③放出放射能は「2,290京ベクレル、全内蔵放射能の20%相当」で短時間放出。 ④事故の型はPWR2(注1)。 ⑤原発から20km、120kmのところにそれぞれ人口10万、600万の都市があること。 ⑥気象条件は風速2m/秒、大気安定度D型(注2)で風は大都市に向かう。 ⑦晩発性障害の影響も考慮。

 政府試算の前提条件と比べて大きく異なる点を紫色にしてあります。

 被害想定

 風下25km地点で、避難が30日より遅れたため4シーベルト(短期線量)を被曝した場合は、住民の半数は急性障害で死亡(注3)。

 風下80km地点に5年居続けると2.4シーベルト被曝し、晩発性がん死(注4)は96%に達する。

 これを、東海原発2号炉(110万kw)に当てはめると、

 被害想定は、急性死亡50万人以上、がん死者は800万人と試算されています。

 以下、検討します。

・ 上記政府試算との違いを見てみましょう。大きく変わるところは、政府試算より瀬尾試算のほうが原子炉出力で6倍、放出放射能量で10倍大きく見積もっていることです。政府試算において、電気出力を16万kwから100万kwへ、放出放射能を2%から20%へと変更すれば、政府試算による被害想定は、死者32,400人、障害者174,000人となります。瀬尾試算、政府試算ともかなり多くの人が死亡することがわかります。

・ 政府試算は昭和30年の国政調査に基ずいたものであり、昭和25年~30年における東京の人口増加率は29.4%(全国平均7.3%)でした。国政調査によれば、東京都の人口は、昭和30年で800万人、平成17年で1250万人です。政府試算(電気出力16万kw)でも2倍程度の損害額を見込む必要があるでしょう。

・ 人体の障害の評価について、「政府試算は「①700レントゲン(6.51シーベルト)以上では被曝後14日以内に全員死亡。②200~700レントゲン(1.84~6.51シーベルト)では放射能症を呈し、被曝線量によって死者が出る。被曝後60日以内に死亡し、その他は180日の入院を必要。③100~200レントゲン(0.93~1.86シーベルト)では、死者はなく90日の入院を必要。④25~100レントゲン(0.232~0.93シーベルト)では90日間の医学的検査及び観察を必要。25レントゲン(0.232シーベルト)以下では障害はない。」としています。

 急性死亡について、ICRPば、2シーベルトを超えると死者が出始め、4シーベルトで半数が死亡するとしています。広島の放射線研究所の研究結果では、2.2~2.6シーベルトで半数が死亡するとしています。

・ 政府は「232ミリシーベルト以下で障害はない」として試算し、晩発性のがん発症は考慮していません。晩発性のがん発生について、ゴフマンは、「1万人が1シーベルトの被曝をすれば4000人が死亡(死亡率40%)する」と言っています。10万人が0.1シーベルト被曝しても死者は4000人(死亡率4%)です。232ミリシーベルトを4万3千人が被曝しても4000人が死亡します。この場合の死亡率は9.3%です。晩発性のがん発症を加えれば、死亡、障害や要観察者は政府試算より多くなるでしょう。

・ 福島原発事故により、大気中に放出された放射能量は、ヨウ素131で16京ベクレル、セシウム137で1.5京ベクレルです(IAEA閣僚会議に対する日本政府の報告書から)。幸いにも福島原発は原子炉や格納容器が爆発せず、この程度の放出量となりましたが、福島原発1~3号機(合計電気出力202.8万kw)が爆発した場合の放出放射能量は(政府試算2%として)どの程度となるでしょうか。驚くことに放射能放出量は、467京ベクレル(202.8万kw×37京ベクレル/16万kw)にもなります。電気出力16万kwの原発の12倍程度の被害が生じることになります。福島原発事故が起こり、政府試算が「想像的・空想的である」とは言えなくなりました。

 尚、報道等における放出放射能量は37京ベクレルとも63京ベクレルとも言われていますが、この数値はヨウ素換算値です。セシウム137のヨウ素換算は40倍されています。本試算における放射能量はヨウ素換算していないものと思います。

 以下、感想です。

 太平洋戦争前、当時の首相が山本五十六海軍次官に「アメリカと戦争したら勝てるか」と問うたことに対し、同氏は「半年や1年なら、存分に暴れてみせるが、その後の結果はわからない。」と答えたことは有名です。暗に「負ける」と言ったのでしょう。

 また、東條英機陸軍大将などが中心となって「日米開戦のシミュレーション」が行なわれていたようです。その結果も「負ける」と言うことでした。

 科学技術庁が日本原子力産業会議に委託した試算がありながら原発建設にのめり込んでいった原発政策と全く同じです。50年前の試算と同じように炉心は溶融し、放射能はまき散らされました。自民党は、性懲りもなく新たな安全神話を持ち出し原発の再稼動や新増設を目論んでいるように見えます。最悪の事故想定に目をつぶり、核のゴミ問題も棚上げにしての原発政策に絶望感すら感じます。

 日本は地震列島で、いたるところに活断層が走っています。どのような屁理屈を言ったとしても、地震が発生し、最悪の場合は政府試算や瀬尾試算のようなことが起きることは、福島原発事故が教えています。結果は明白です。廃炉しかありません。

 原発事故が起き大量の放射能が放出した場合、数10~数100万人及ぶ被災者をどの地域が受け入れてくれるでしょうか。また急性死亡者が出るような地域に、災害救援の手が差し伸べられるでしょうか。2次被曝を防ぐために、政府は救援活動を禁止するかも知れません。原発を再稼動する場合、この点も明確にして欲しいものです。

 100万kwの原発の運転停止後の崩壊熱は、10秒後で16万7000kw、1時間後で4万2300kw、1日後で1万7200kw、1年後で693kw、3年後で267kw、10年後で124kwとのことです。運転停止期間が長いほど、危険性は小さくなります。そういう意味でも、再稼動に反対する意義があります。廃炉に反対と言う意味ではありません。

 関連記事(ものぐさ 太平洋戦争と原発)。

 単位換算

 1キューリー=3.7×10の10乗ベクレル

 1レントゲン=0.0093シーベルト

 1シーベルト=1000ミリシーベルト

 1京ベクレル=10の16乗ベクレル

 1テラベクレル=10の12乗ベクレル

 (注1) 炉心冷却系が故障して炉心溶融。更に格納容器スプレーと熱除去系も故障するため、格納容器内の圧力上昇を抑えることができず、ついには格納容器の耐圧限度を突破して破裂する。かくして格納容器内に充満していた大量の放射能が環境に噴出する。

 (注2) 昼夜を問わず、風速に関係なく、雲の多いうっとおしい空模様。開き角度15度で風下に扇状に広がり、放射能雲は低く垂れこめる。

 (注3) ICRPによれば、4シーベルトで半数が急性死亡する。広島の放射線研究所は、2.2~2.6シーベルトで半数が死亡すると公表(1987年の新聞報道)。

 (注4) ゴフマン氏は、1万人・シーベルト当りの晩発性死者は4000人としている。1万人の人が1シーベルト被曝すると4000人が死亡。10万人の人が100ミリシーベルト被曝しても4000人が死亡する。

 

 

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