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2013年6月22日 (土)

地震用語 加速度時刻歴波形と加速度応答スペクトル

 加速度応答スペクトルとは何か。よく言われる加速度時刻歴波形(地震波形)との違いは何か。これが、調べてみようとしたキッカケです。

 東電の報告書「福島第一・第二原子力発電所における平成23年東北地方太平洋沖地震時に取得された地震観測記録の分析に係わる報告(概要)」から福島第一原発のデータを抜粋します。

(1) 基礎版(注1)上の加速度時刻歴波形(東西方向)とは何か。

① 原子炉建屋3号機の基礎版上で観測した最大加速度(東西方向)・・・507ガル

② 原子炉建屋3号機の基礎版上における基準地震動Ssに対する最大応答加速度(東西方向)・・・441ガル

 この点について、東電は「観測された507ガルは基準地震動Ssに対する最大応答加速度441ガルを上回っている」と述べています。厳密には上回ってはいけないのです。

 経過時間を横軸に、時々刻々変化する加速度の大きさを縦軸にプロットした波形が加速度時刻歴波形であり、その最大値が507ガルや441ガルなのです。良く見慣れている地震波形です。この波形は、後で詳述するように多くの周期(周波数)からなっています。 

(2) 基礎版上における東西方向の加速度応答スペクトル(注2)とは何か。

① 原子炉建屋3号機の基礎版上で観測した加速度応答スペクトル(東西方向) 

周期0.1秒・・・700ガル   周期0.2秒・・・700ガル   周期0.3秒・・・1500ガル

② 原子炉建屋3号機の基礎版上で基準地震動Ssを入力して算出した加速度応答スペクトル(東西方向) 

周期0.1秒・・・700ガル   周期0.2秒・・・800ガル   周期0.3秒・・・700ガル

 加速度応答スペクトルとは、各周期に対する、構築物の受ける最大の加速度を意味します。基礎版上で1500ガルの加速度を観測しました。もし、構築物の固有周期が0.3秒であれば、構築物は共振し、1500ガルの大きな揺れに見舞われると言っているのです。基準地震動Ssから算出した700ガルを大きく越えることになります。

 基準地震動Ss(ものぐさ 地震用語 解放基盤 はぎとり波 基準地震動 基礎版)は、設計用限界地震として定められたものです。その意味するところは「設計用限界地震に襲われ、弾性限界を超えることがあっても、つまり機器が変形してしまっても、安全機能を保持すること。機器が変形するのは止むを得ないが最悪の事故だけは回避せよ。」と言うことです。

 よって、構築物が大きな揺れに見舞われ1500ガル共振した場合、機器変形の可能性があるのです(共振していなければこのような大きな揺れにはならない)。

 さて、(1)①の加速度時刻歴波形の最大加速度507ガル、特に(2)①の周期0.3秒における加速度応答スペクトル1500ガルを大きく上回っています。共に基礎版上の観測値です。何故でしょう。(2)①は特定の周期のものをピックアップした値です。周期2秒の場合は300ガル程度でした。全ての周期(周波数)で平均化すれば507ガルとなるのでしょう(ものぐさ ?)。 

 (2)①と(2)②の違いについて、東電は「観測記録の応答スペクトルが一部の周波数帯において、基準地震動Ssによる応答スペクトルを上回っているものの、概ね同程度となっている」と述べていますが、基準地震動Ssを越えているのですからおかしな弁解です。

 改めて、加速度時刻歴波形とは、時間の経過に伴い、時々刻々と変化する加速度をプロットしたものであり、複数の周期(周波数)からなる調和振動(注3)を合成した波形です。言い換えれば、加速度時刻歴波形は多くの周期(周波数)を持った調和振動に分解できるのです。

 原発敷地内の建屋や基礎版、更に地中にまで数多くの地震計が埋め込まれており、時間の経過とともに、地震による揺れの大きさを読み取ることができるのです。

 更にしつこく、加速度時刻歴波形とは何でしょう。もう少し詳しく述べます。

 同波形はフーリエ解析すると以下のように表現できます。

 y(t)=A0+A1cos(ω1・tーφ1)+A2cos(ω2・tーφ2)+A3cos(ω3・tーφ3)+・・・Ancos(ωn・tーφn)+・・・(1式)

 これが延々と続きます。y(t)はある時刻における加速度の大きさ、tは経過時間、ω1、ω2、ω3は角周波数(注4)。φ1、φ2、φ3は位相角。nは連続番号でωのn倍と言うことではありません。このように、多くの周期(周波数)成分からなる波形を加速度時刻歴波形y(t)といいます。

 φの項は何故あるのでしょう。これがあることによって、(1式)のある時刻においてA1cos(ω1・tーφ1)がゼロであっても、A2cos(ω2・tーφ2)はゼロでないことが表現されています。更にA1、A2、A3は徐々に小さくなるので、(1式)はせいぜい5項程度で同波形を表すことができます。

 さて、加速度応答スペクトルとは何でしょう。(注2)にも書きましたが、もう少し詳しく述べます。

 地震動が作用した場合の振動方程式は

 y2=-x2-(c/m)・x1-(k/m)・x0・・・(2式)

 として表されます。ここで、

 y2は静止座標に対する地盤の加速度、x2は地盤に対する質点の相対応答加速度、x1は地盤に対する質点の相対応答速度、x0は地盤に対する質点の相対変位。cは粘性減衰係数、mは質点の質量、kは剛性となります。

 減衰の項(c/m)が一定なら、地震動y2が作用した場合、構築物の振動は、mとkで定まります。すなわち、mとkで定まる固有周期Tで定まります。このことは、ある地震の際の構築物の振動は、その構築物の固有周期によって定まることを意味します。それぞれ固有周期をもつ構築物に対して、固有周期に着目して、その地震応答を求めたものが加速度応答スペクトルなのです。

 加速度応答スペクトルは、その地震動が各固有周期の構築物に与える影響を示したものです。すなわち、地震動の固有周期と同じ周期の構築物は、極めて大きな揺れに襲われるのです。これを共振現象といいます。設計上は、この共振を避けるように構築物は設計されています。

 加速度応答スペクトルの横軸は振動を受ける構築物の固有周期であり、縦軸はその固有周期を受ける構築物(正確には1質点系)の応答の最大値です。

 また、静止座標に対する地盤の加速度y2は、地盤に対する1質点系(注5)の変位・速度・加速度から求められると言うことです。また、地震動の動きは、時々刻々の地面の運動の変位、速度、加速度で表すことができ、この3つのどれか1つの時々刻々の履歴が得られれば、他の2つの動きは微分なり積分をすることで得られるのです。すなわち、変位を微分すれば速度となり、更に微分すれば加速度となります。逆に、加速度を積分すれば速度となり、更に積分すれば変位となるのです。

 時々見かけるトリパタイト応答スペクトルなる図があります。この図の縦軸は速度、横軸は周期、図のX-Y面で正の傾きを持った直線群は加速度、X-Y面で負の傾きを持った直線群は変位となります。この図では、各周期に対する加速度、速度、変位を一目で見ることができます。

 図において、加速度、速度の関係を見てみましょう。加速度が大きいからといっても、その揺れが短時間であれば、大きな被害にならないことは直感的に判ります。速度は加速度の積分であるので、瞬間的に大きな加速度がでても、速度は小さく、構築物の変位も小さい。加速度が大きいから一概に危険であるとは言い切れません。

 地震の揺れによる原子炉の揺れるエネルギーは(1/2)mV・Vと表されます、エネルギーは速度Vの2乗に正比例します。よって、特に大口径の配管類は、中程度の加速度であっても、速度が大きければ、被害は大きくなります。

 もし、ある地震動の周期に共振する機器があった場合、大きな揺れを誘発し、配管類が破断する可能性があります。電力会社は、補助器具等を使って、この共振を避けるようにしているのですが、例えば、この補助器具が、溶接不良等で断裂寸前であった場合はどうなるでしょうか。補助器具を付けることで共振を避けてきた大口径配管は共振し、大きな揺れに見舞われ破断してしまう可能性もあります。

 応答スペクトルのほかに、紛らわしい表現として、フーリエスペクトルとフーリエ振幅スペクトルとがあります。

 光スペクトルは、赤、橙等の7色に分解され、各色の構成を示すことができます。一般的には、「複雑な組成を持つものを、単純な成分に分解し、その成分を特徴づけるある量を大小の順に従って並べたもの」と定義されます。

 フーリエスペクトルとは、ある地震動を構成する振動成分を示したもの(上記1式)。フーリエ振幅スペクトルの横軸は、その成分の振動の周期(周波数)で、縦軸は振動の振幅(上記1式のA1、A2、・・・An)。

(注1) 海面下数10mの位置にあり、基礎版上に原発は設置されている。

(注2) 縦軸に加速度を、横軸には構築物(1個の質点、バネ、ダンパで単純にモデル化したもの)の固有周期をとり、ある特定の地震に対する加速度の最大値をプロットしたもの。構築物の固有周期と地震の固有周期が一致すると、共振現象が生じて構築物は大きく揺れる。

(注3) sinやcosで表される周波数が一定の波。y=cos(ωt-φ)です。

(注4) ω=2πf=2π/T。ここで、fは周波数、Tは周期。

(注5) 複雑な構築物を、質点とバネとダンパーからなる振り子のようなものにモデル化したもの。

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