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2014年5月

2014年5月 2日 (金)

浜岡原発避難に最長29時間

 UPZ圏内の住民86万人が31km圏外に車で避難するシミュレーションによると、夏季の行楽シーズンの場合、観光バスが7000台増え最悪のケースで29時間10分(注1)かかるとの見解を「静岡県原子力安全対策課」は公表しました。「被曝を可能な限り低減する」、「避難に伴う住民の負担を可能な限り軽減する」ことも考慮してシミュレーションを実施したと、概要は述べています。詳細については「浜岡原子力発電所の原子力災害対策重点区域の避難シミュレーションの結果について」を見てください。

 去る1月に「環境経済研究所」は避難道路を国道のみに限定した試算を公表し、避難は6日間としています。このあまりにも大きな違いに不信感を持ちました。本当だろうか。何か裏はないのか。想定が甘すぎるのではないか。

1 シミュレーションの条件を以下に示す。

・ 国道、県道、主要市町道、東名・新東名高速道路を使用。但し、津波浸水区域の道路は使用不能。 

・ 世帯毎に1台の車で避難するとして、UPZ圏内の避難車両は約28万台。市町別に1時間当たり3000台ずつが段階的に車で避難する。

・ 震災や津波で浸水する沿岸道路(国道150号線など)は使用不能。

・ 避難時間は一定の確率分布に従うものとし、避難車両の90%が避難を完了する時間とした。

・ 観光客の車両台数を約7000台と想定。

・ PAZ圏内の全住民がバスで避難するケースも考慮。

・ 放射性物質の拡散範囲が風向きにより限定されることを想定して、避難範囲を限定(原子力単独災害のみに限定)。

2 疑問点

・ 避難には、国道、県道、主要市町道、東名・新東名高速道路を使用としているが、道路の陥没や液状化、橋梁の崩壊は考慮しているのですか。

・ 東名・新東名高速道路は本当に住民の避難に使えるのでしょうか。日本が壊滅するかしないかの大災害です。自衛隊、消防、行政関係者の優先道路になってしまうようにも思えます。避難6日と試算した「環境経済研究所」は避難道路を国道のみに限定しています。

・ 私道や主要でない市町道は問題ないとしているのでしょうか。ブロック壁の倒壊も考えられます。倒壊により通行不能になれば、避難できません。

・ 放射性物質の拡散範囲を想定して避難範囲を限定(原子力単独災害のみに限定)しているが、何故複合災害を考慮しないのか。福島原発では、地震・津波の影響で道路は壊滅的な打撃を受けているのですよ。

・ 原発の風下に住む住民は風下に逃げないだろう。かといって、原発に近づくことも躊躇する。直感的には、風向に対して直角方向に逃げるのではないか。風下に避難する経路と原発に近づく経路を住民が避けた場合、更に道路は渋滞するのではないでしょうか。

・ 福島原発事故ではSPEEDIの放射能拡散情報もなく、風下に当たる飯館村方面に逃げた人達は、余分な放射能を浴びてしまいました。どうしてSPEEDIの情報とリンクした避難計画としないのですか。「被曝を可能な限り低減する」と謡いながら、なんとも不完全なシミュレーションです。単純化したとするなら、あまりにも意味のないシミュレーションです。「最長29時間」という数値を刷り込むことが目的のようにも感じます。

・ 90%で避難完了としているが、残り10%の避難は何時間必要なのですか。UPZ圏内の避難車両28万台のうち2.8万台は避難できずにいるのです。

 100%避難する場合の最悪値は46時間15分との記述があります。2日間弱自宅で待機し、その後に避難開始した場合のシミュレーションです。この場合、車両の走行時間(車中滞在時間と思われる)は2時間30分(避難車両の90%目の車両の走行時間)と短くなります。ちなみに、最後の車両がUPZ圏外に達する走行時間は7時間55分です。自宅待機した後、移動したほうが運転手の負担が少なくなるようです。

・ 1時間当たり3000台の車両が段階的に避難をするとしているが、細分化は市町内で行い、市町にまたがった細分化は考慮していないとしています。隣町も3000台避難したら、両町合わせて6000台が避難することになります。3町合計すれば9000台になります。想定外の大渋滞でしょう。

・ 行政の指示による屋内待機に住民は理解を示すでしょうか。我先に逃げようとします。自家用車で逃げろ、しかし行政の指導に従えですか。先の韓国船沈没事故では、船内アナウンスに従ったほぼ全員の生徒が死亡し、行方不明です。

・ 災害弱者にバスは迎えに来てくれるのですか。必要なバスは手配できるのですか。

・ 福島原発事故では、津波到来からわずか4時間で炉心溶融が始まっています。格納容器の圧力が上昇すれば、直ちにベントも始まるでしょう。避難に29時間かかろうが、想定が甘くそれ以上かかろうが、住民が急性被曝しようが、行政は責任を取らないでしょう。自らの保身は担保されるのです。

・ 同課は実効性のある避難を実現するための課題を提起し、国、関係市町、防災関係機関等と検討し、策定中の避難計画に反映していくと言う。不完全なシミュレーションであることを認めているのでしょう。それなら何故、この時期にと感じざるを得ません。

・ 不完全なシミュレーションで避難計画を策定するのですか。実効性のない「絵に描いた餅」になりませんか。避難計画のハードルを下げたいとする思惑はないですか。

・ 同課は本当に県民の安全を考えているのですか。

・ 同課は、「原子力県民講座」を主催しているが、講師に偏りはないですか(注2)。後日、彼らの発言を紹介したいと思います。

・ シミュレーションは三菱重工業に委託したものと聞きました。三菱重工業は原発を製造しています。これが本当なら驚きです。果たして信用できるのですか。

 以上見るように、多くの矛盾や課題があります。全く中立的な第三者のシミュレーションと県民からのパブリックコメントを募集して欲しいものです。避難は不可能でしょう。だとしたら、避難しなくても良いように、原発を廃炉にするしかありません。同課は「県民が安心できる避難計画の策定は不可能です」と国に対して言うべきです。報道も、同課の発表をそのまま伝えるのではなく、深く掘り下げて問題点を明らかにして欲しいものです。

3 このシミュレーションについて、各方面から否定的な意見が出されているので紹介しておきます。

(島田市長) 東日本震災の教訓を考えれば、計画通りには行かない。実際に事故が起きたら、皆が我先に避難となり混乱は大きくなる(4/24)。

(白鳥元原発訴訟原告代表) 浜岡原発緊急避難に要する時間は中日新聞で28時間、朝日新聞で32時間と報道されているが、原発直下でドカンと来たら、逃げ切れない。牧之原市は4000人が津波で死ぬと言う。こんな状況でどうして車で逃げ切れるのか。牧之原市長以下4人の幹部は逃げ切れないと言っていた(ものぐさ 菅元首相・河合弁護士 原発シンポジウム)。

(袋井市長) 一刻も早く避難したいと思う市民感情に応える結果ではない。①避難経路を特定する必要がある。②放射能汚染を除染するスクリーニング地点が天竜川を越えた浜松市に設置されるが、袋井市から向かう場合、使える橋は6ヶ所しかないため、大渋滞が予想される。③障害者や入院している人達への対応が加味されていない。④問題点を加えたシミュレーションの実施、避難先の速やかな決定、防護服の確保など具体的な対策を要望する。⑤どこに逃げるのかを決めないと現実的な避難計画にならない(4/29)。

 関連記事(ものぐさ 静岡県の緊急避難計画 その1

(注1)

・ UPZ圏外へ90%の車両が避難できる時間。          29時間10分

  90%目の車両がUPZ圏外へ脱出するまでの走行時間。   19時間30分

・ UPZ圏外へ100%の車両が避難できる時間。         40時間20分

  最後の車両がUPZ圏外へ脱出するまでの走行時間。     30時間05分

(注2) 原子力県民講座

・ 平成25年 3/17

 福島第一原子力発電所事故から得られた課題、教訓と対策・・・
名古屋大学大学院工学研究科マテリアル理工学専攻山本章夫教授。

 放射線・放射能に関する基礎知識・・・東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻小佐古敏荘教授。

・ 平成25年 10/20、12/15、12/25

 福島第一原子力発電所事故から得られた教訓、課題と対策・・・古屋大学大学院工学研究科テリアル理工学専攻本章夫教授。

 放射線の基礎とその影響・・・岡大学大学院理学研究科・附属放射科学研究施設長野健二教授。

・ 平成26年 3/16

 放射性廃棄物の処分について・・・戸伊緒里。

2014年5月10日 (土)

地層処分 楠戸伊緒里氏の資料より

 原発の使用済み核燃料を再処理する工程で出る高レベル放射性廃棄物をガラスで固め、一定期間冷却した後、金属容器に入れて地下300m以上の深い地層に埋める「地層処分方式」が「日本原子力研究開発機構」で研究されています。

 さて、楠戸伊緒里氏は平成26年3月16日開催の「静岡県原子力県民講座」において、「放射性廃棄物の処分について」という題目で講演しています。かつて、同氏は地層処分を研究する「動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)」に所属していました。同講座で配付された資料から、同氏の主張を見てみます。質問して判断したわけではないので、誤解もあるかもしれません。

 「地層処分は最も現実的で確実に最終処分を実施できる方法である。国民的議論と社会的合意が必要になる。」というのが同氏の結論のようです。

 同資料の「まとめ」の部分を引用し、素人ながら反論してみます。

1 原子力政策によって「核のゴミ」の課題は変化するが、原発推進、脱原発に関わらず、既に存在する放射性廃棄物の処理・処分の問題は、必ず解決しなければならない。

(反論) 当然である。しかし、更に原発を推進すれば、新たに発生する放射性廃棄物は、更に増加する。社会的にも技術的にも多くの困難な課題を有する放射性廃棄物はこれ以上増やしてはならない。

2 原発で発電した電気を利用した我々には、放射性廃棄物を生み出した世代としての大きな責任がある。国内で発生した放射性廃棄物は、国内で処分しなければならないので、我々が何も決めずに単に問題を先送りすればするほど、将来の世代により多くの負担を強いることになる。

(反論) 当然である。

3 最も難しい課題は、発生時の放射能が極めて高く、時間と共に放射能が低下するものの、超長期間危険なゴミであり続ける、高レベル放射性廃棄物の最終処分である。高レベル放射性廃棄物を安全に捨てる方法として、300mよりも深い地下に人工的なバリアを設けてゴミを封じ込める地層処分が、世界中で唯一無二の最終処分方法であると認識されている。

(反論) 高レベル放射性廃棄物の処分方法をめぐって、日本学術会議は高レベル廃棄物について「今後数十〜数百年間、暫定保管すべきだ」との提言をまとめています(ものぐさ 日本学術会議 核のゴミは「暫定保管」と「総量管理」で)。更に、科学・技術的能力の限界を指摘し、同会議は「超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たり、現時点の科学には限界がある。特定の専門的見解から演繹的に導かれた単一の方針や政策のみを提示し、これに対する理解を求めることは、もはや国民に対する説得力を持つことができない。」とまで述べている。

4 地層処分は、絶対に安全とは言えないが、科学的で技術的な根拠に基づいて、リスクを最小限に抑えることができ、最も現実的で確実に最終処分を実施できる方法である。

(反論) 「絶対に安全とは言えない」とは、「何らかの危険がある」と言っているように聞こえる。「最小限のリスク」と抽象的に言われても、最小限のリスクとは何を指しているのか不明である。判ったようで判らない文章である。上記3項の反論に見るように、日本学術会議は「安全性に関して、現時点での科学では限界がある」と指摘している。

5 地層処分は処分場の候補地選びから、処分場の閉鎖まで、順調にいったとしても、約100年という長い年月がかかるため、世代を超えた国民的議論と社会的合意が必要になる。「核のゴミ」問題が、専門家と政治家の力だけでは解決できないことは、これまでの経過から明白である。主権在民の日本でゴミ問題を解決するには、一般市民の力が不可欠である。

(反論) 2項で、「放射性廃棄物を生み出した世代としての大きな責任があり、問題を先送りしてはいけない」と述べている。地層処分に科学的な限界がある以上、これ以上のゴミを出さないのも「世代としての責任」である。

 政府は原発再稼働に前のめりで、「核のゴミ」はどんどん増える。一方、国民の責任で「核のゴミ」の処分を解決しろ、地層処分に理解を示せ、リスクはある。なんとも独善的な言い分です。主権在民を持ち出すなら、再稼動を含め、(原子力村関係者ではなく)一般国民の意見を聞けと言いたくなる。

 最後に、資料中の主張で気になった点を記します。

1 どんな発電方法にも欠点があると述べているが、原発事故による放射能被曝は、他の発電方法の欠点(二酸化炭素による地球温暖化、バードストライク、気候変動による発電量の不安定)に比べ比較にならないくらい重大なリスクです。

2 「野菜くずはカリウム40を含んでいるが単なる生ゴミ。放射性物質がほんの少し付着した廃材を特別に危険なものとみなす必要はない。」と述べています。野菜くずを引き合いに出している点が気になります。始めから自然界に存在するものと、原発の恩恵を受けた見返りとして人類が作り出したものとを同レベルで比較するのは間違っていると思います(注1)。低レベルの放射能であれば、許容限度はなく青天井でも良いと考えるのですか。地球全体が放射能だらけになります。

3 原発事故由来の放射性物質で汚染された廃棄物(原発事故による災害で発生した廃棄物、除染廃棄物、除染土壌等)は、放射能を持っていても法令上、放射性廃棄物とは呼ばない」としているが、実態は放射性廃棄物であることに変わりません。

4 「核のゴミの危険性に応じた適切な処分方法を選ぶことによって、安全に捨てることができる。つまり、適切な方法で管理や隔離を行なえば、環境中の放射性物質の量を一般の人々が許容できる範囲内に抑えることができ、人体への影響も無視できる程度に小さくできる」とし、更に「管理期間(300~400年)終了後には一般的な土地利用が可能となる」と述べています。

 しかし、ピット処分におけるセシウム137の濃度上限推奨値は1000億Bq/kg。半減期は30年であるので、300年後の濃度は1024分の1の1億Bq/kgです。300~400年程度でその上を宅地や農地にしても良いのでしょうか。地下10m程度の場所に、数万から数億ベクレルの放射性物質が埋設されているのです(ものぐさ 「第二種廃棄物埋設施設」・・・トレンチ処分とピット処分)。

5 高レベル放射性廃棄物であるガラス固化体(直径43cm、高さ134cm)は炭素鋼でできたオーバーパック(厚さ19cm)、締め固めた粘土である緩衝材(70cm)からなる人工バリアで覆われ、その外側は堆積岩からなる天然バリアで覆われていると説明しています。

 炭素鋼、粘土でできた人工バリアは本当に安全なのですか。原発では「5重の安全」という安全神話を信じ、そして裏切られました。

6 1000年後にオーバーパックが機能を失ったと仮定して、一般的な地質環境を仮定し、放射性物質を含んだ地下水が断層破砕帯を移動したと仮定した場合の計算例が示されていますが、3つの仮定が崩れた場合、想定外の汚染に見舞われることはないでしょうか。地質環境はバラツキも多く、地下水の移動速度は、深さ1kmまであまり変わらないとのデータもあります。300mの地中だから移動速度が小さく安全と言うわけでもなさそうです。

 地層処分の安全性に言及していますが、「臭いものには蓋」の諺があります。最も怖いのは、地下で何が起こっているかも判らない状況下で、高レベル放射性廃棄物の存在を国民が忘れてしまうことです。なかったことになれば「何でもあり」と言うことになりませんか。

 「核のゴミ」を何とかしなくてはいけないということについては同感です。しかし、脱原発派も含めた公正な第三者機関がこの問題について方針を示さない限り、地層処分は国民の信頼を得られません。最悪の場合、放射能汚染する可能性があるからです。日本学術会議は、地層処分に否定的です。

 脱原発を進め、これ以上「核のゴミ」を増やさないと言う国の方針がない限り、国民はリスクのある「核のゴミ」問題に真剣に向き合わないでしょう。 

(注1) 著書「原発問題の争点・・・内部被曝・地震・東電・・・」で、山田耕作や大和田幸嗣は、面白いことを言っている。以下引用します。

 人工の放射性物質セシウムと自然放射性物質カリウムは同じベクレル数でも生体内での挙動が異なる。数億年にわたる進化の過程でカリウム40は重要な臓器には長くとどまらず、被害は少ない。一方、人工の放射性物質であるセシウムは心臓、脳、腎臓など重要な臓器に蓄積し、それを傷つける。それ故、放射性セシウムのほうが少量でもカリウム40より危険である。つまり、臓器への取り込みかたが異なる(山田)。

 人の誕生以来、体内に均一に存在する自然放射性カリウム40の量は4000~6000ベクレルと言われている(大和田)。

 カリウム40(半減期は12.5億年)は、生物にとって重要な元素であるから否応なしに体内に入ってくる。しかしカリウム40の代謝は早く体内に蓄積することはない。このような生物の機能は進化の過程で獲得してきた適応の結果なのである。カリウムを蓄積するような生物が仮に現れたとしても、蓄積部位の体内被曝が大きくなり、そのような生物は進化の過程で淘汰される。カリウム40は37億年くらい前から共存してきたもので、人工放射性物質セシウム137等と決定的に違うところである(大和田が市川定夫「新環境論」から引用)。

 

 

2014年5月15日 (木)

環境省 福島vs青森・山梨・長崎の甲状腺検査 統計的な有意差 ?

 子供の甲状腺がんの発生率は100万人に1人が通説(ものぐさ 福島原発 甲状腺障害)と言われています。国立がんセンターのデータを見てみましょう。

 男性の甲状腺がん罹患割合は、19歳以下で100万人に1人、20歳以上39歳以下で10万人に1人となっています。このデータは国立がん研究センターが全国の地域がん登録事業実施道府県に依頼して集計したものです。甲状腺に何らかの違和感があり来院した患者のデータであるとすれば、症状のない人を含めて実施した罹患割合は100万人に1人の割合よりもっと小さくなると思います。例えば1000万人に1人とか。もし、国が言うように放射能との因果関係がないとすれば、無症状の人も含んだ「福島県民健康管理調査」も100万人に1人の割合よりもっと小さくなるはずです。ところが、実態は100万人に対して275人も発症しています。

 さて、環境省が青森・山梨・長崎で調査した結果(以下3県調査)を以下に示します。

・ 3県調査結果(3/28)

対象者   4,365人   B判定44人     C判定0人  甲状腺がん1人    疑い0人    結果確定数    31人

・ 福島の調査結果(平成25年12月31日現在)

対象者 269,354人   B判定1,795人  C判定1人  甲状腺がん33人   疑い41人   結果確定数  1,342人

 甲状腺の判定基準は、異常なしの「A1」判定、5mm以下の結節や20mm以下ののう胞ありの「A2」判定、5.1mm以上の結節や20.1mm以上ののう胞ありの「B」判定、直ちに二次検査を要する「C」判定に区別されます。

 上記に示した数値「結果確定数」とは、初回検査でBまたはC判定を受けた人のうち、その後の追跡調査に同意した人の数です。例えば「3県調査」では44人のうち、31人が同意しています。

 同調査結果を検討してみましょう。詳しくは、環境省HP「甲状腺結節性疾患追跡調査事業(速報)について(お知らせ)」に詳しく記載されています(平成26年3月28日報道発表)。

・ 最初にB・C判定された人でも、時間経過後にA判定に移行した人の割合は(福島及び3県調査共)35%程度ありました。このことは、時間の経過とともに結節やのう胞が縮小することもあり得ることを示します。「3県調査」では、「結果確定数」31人に対して、B・C判定のままであった人は20人、A判定に移行した人は11人いました。

・ 時間経過してもB・C判定のままであった残りの65%のうち、細胞診を受けた人は、3県調査で20人中2人(10%)、福島調査で871人中369人(42%)となっています。細胞診を受けた人の割合がこんなに違うのはなぜでしょうか。この点についての説明はありません。

・ 福島県民健康管理調査は終了しているわけではないと聞いています。調査対象者が増えれば、甲状腺がん及び疑いのある人は増えていくでしょう。未調査の地域に高線量被曝した人がいれば、甲状腺がん・疑いのある人の割合は更に大きくなるでしょう。

・ 「3県調査」では4,365人に対して甲状腺がんは1人でした。もし0人であれば、「3県調査」で甲状腺がん患者はいなかったと言うことになります。偶然に見つかったとも考えられます。1人いたから100万人に対して229人と福島と同じになったわけです。環境省も統計的な有意差のあるデータではなく、(無いよりましな)目安としてのデータだと言っています。統計的に有意でもないデータが一人歩きし、「放射能との因果関係は考えにくい」と言う空気になってしまうことが心配です。また、この1人が本当に甲状腺がんであったかどうか何の検証もできません。まさかデータの捏造は無いでしょうね。

・ 「因果関係は考えにくい」のではなく、「因果関係は分からない」と報道は伝えていますが、福島の場合100万人に対して275人です。因果関係は明らかです。

 武田教授はガリレオ放談で、「世界恐慌で部数を減らした新聞は、紙面を軍の主張に合わせ、庶民は紙面に影響されてナショナリズムに熱狂し、政府は庶民の支持を得ようと更に軍拡を進め、太平洋戦争に突入して行った実態」を伝えています。そして、最悪のスパイラルから抜け出せずに、東京大空襲、沖縄殲滅、原爆投下と政府は国民を苦しめたのです。そして、日本のマスコミは「空気を製造しているだけだ」とも言っています。KY(空気を読め)など最も注意しなくてはいけない言葉です。

 現在、インターネット等の影響で新聞の発行部数やテレビの視聴率が減っていると聞いています。広告収入の欲しいマスコミは原子力村からの誘惑に手を染めるのでしょうか。原子力村や政府の主張に紙面を合わせ、庶民は紙面に洗脳されて原発の必要性を受け入れ、政府は電気料金の高騰に喘ぐ庶民の支持を得ようと再稼働に突入して行くなんてことは無いでしょうね。

 秘密裏に会議(いわゆる秘密会)を繰り返し、事前に調査結果に対する評価をすり合わせ、議事録までも改ざんしていた「県民健康管理調査」の実態が報道により明らかにされました。そこで専門家や県行政は「①どこまで検査データを公表するか、②どのように説明すれば騒ぎにならないか、③見つかった甲状腺がんと被曝との因果関係はない」などを話し合っていたようです。更に、秘密会の後に行なわれる検討委員会のシナリオまで用意していました。福島県民の健康を守り、被曝による将来の健康被害に如何に対応していくのかを策定するのがその役割なのに、まさに「放射能の影響はなく、因果関係はない」ありきの検討委員会です。放射能の影響はなかったものとしたいのでしょう。

 「美味しんぼ」の鼻血描写は、専門家や県行政の不誠実さに対する国民の怒りを代弁しているものと考えます。これに対して、専門家や国はその火消しに躍起です。このマンガが、原発の危険性、放射能の怖さ、いざとなったときの国の冷酷さを再認識する良い契機となることを期待しています。

 統計的に有意でもないデータを国は公表し、マスコミはこれを黙認し、そのデータが1人歩きし、原発事故による放射能の影響をなかったものと庶民は勘違いしていく。こんなストーリーを国は狙っているのでしょうか。

 関連記事(ものぐさ 内部被曝評価はシーベルトではなくベクレルで)。

2014年5月20日 (火)

長沢教授 大甘な大飯・高浜・川内原発の基準地震動

 長沢啓行(大阪府立大名誉教授)は地震動の評価について「手法が古すぎ、過小評価している。愕然とした。」と述べています(5/1の報道)

 地震は実際に観測された地震波を用いて「耐専スペクトル」と「断層モデル」で評価されるが、「十数年前に作られて以降、この20年間に収集された国内の地震の観測記録は、計算式に反映されていない、とも述べています(ものぐさ 地震用語 「等価震源距離」とは、そして、「耐専スペクトル」のデタラメさ)。

 活断層の有無や長さで派手に電力会社と遣りあっている原子力規制委員の姿勢に、私は信頼を寄せていました。

 ところが、一般人が理解できない基準地震動を過小評価していたのです。同地震動を低く見積もるほど、電力会社は耐震補強工事にかける費用を低く抑えることができます。再稼動のハードルも下がります。同委員会は政府、原子力村関係者と大芝居を演じているのでしょうか。裏切られた気分になりました。電力会社との裏取引ですか。

 同委員会が発表する各原発の基準地震動を監視していく必要があります。同委員会等や電力会社が主張する基準地震動と長沢教授らが主張する基準地震動を以下併記します。

・ 高浜原発    同委員会   700ガル    長沢教授  1000ガル以上

・ 大飯原発    同委員会   856ガル    長沢教授  1500ガル以上

・ 川内原発    同委員会   700ガル    長沢教授  断層モデルの2~3倍(注1)

・ 伊方原発    四国電力    570ガル    美浜の会(武村の式)  2680ガル以上

 基準地震動を上回る確率(超過確率)は1万年に1度です。とすれば588年に1度の確率となるが、下記に見るように、基準地震動を超えた原発は10年間で5度もあります(ものぐさ 地震学の現状・誤り)。

① 2005年8月の宮城沖地震(Mj7.2)の女川原発。375ガルから580ガルに引き上げ。

② 2007年3月の能登半島地震(Mj6.9)における志賀原発。0.36秒から0.39秒までの比較的長周期側の周期において基準地震動の応答スペクトルを超えていた。490ガルから600ガルに引き上げ。

③ 2007年7月の新潟県中越沖地震(M6.8)における柏崎刈羽原発。450ガルから2300ガルに引き上げ(観測データは1699ガル)。

④ 2011年3月の東北地方太平洋沖地震(M9)における福島第一原発。基準地震動(注2)600ガルに対する基礎版上(注3)での加速度を438ガルと想定していたが、基礎版上で550ガルを観測した(注4)。

⑤ 2011年3月の東北地方太平洋沖地震(M9)における女川原発。基準地震動(注2)580ガルに対する基礎版上(注3)での加速度を512ガルと想定していたが、基礎版上で573ガルを観測した(注4)。1階、3階、屋上に行くほど加速度は大きい。

 基準地震動の定義は「地震学的見地に立脚し設計用最強地震を上回る地震について、過去の地震の発生状況、敷地周辺の活断層の性質および地震地帯構造に基づき工学的見地からの検討を加え、最も影響の大きいものを想定する」とされています。このように定められているにも関わらず、観測値はこのレベルを易々と超えています。電力会社は「基準地震動に対する最大応答加速度値を一部上回っているものの、ほぼ同等であった。」などと主張してるが、観測値を遥かに上回る基準地震動を設定しなければ、住民は安心できません。M6~7の地震で、このような有様です。原発直下でM8~9に見舞われたら、基準地震動を大幅に上回り、原発の配管は破断し、制御棒は挿入できなくなり、原発は爆発する可能性もあります。

 福島原発事故のようにならないためにも、基準地震動は更に厳しく評価されなくてはなりません。「再稼動できなくなる原発が続出するから小さく見積もった。古い手法のままでの地震動とした。」と言うのであれば、震災前の原子力安全・保安院と何ら変わりません。地震学者の意見を真摯に正面か受け止めて欲しい。

(注1) 「断層モデル」で評価した基準地震動は、「耐専スペクトル」の評価の1/2~1/3と長沢教授は述べている。すなわち「断層モデル」の2~3倍を基準地震動とすべきである。高浜原発は「断層モデル」と「耐専スペクトル」で評価。「大飯原発は「断層モデル」で評価。

(注2) 基準地震動とは、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」についての解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の加速度(ものぐさ 地震用語 基準地震動Ss、弾性設計用地震動Sdとは)と定義されています。解放基盤とは、原発敷地において一定以上の固さをもつ地中の地盤の上部を仮想的にはぎとった表面を指す。

(注3) 女川原発の基礎版は地下2階。この基礎版上に原発は設置されている。

(注4) 基準地震動は原発周辺の断層等を考慮して推定した値である。仮にこの基準地震動に相当する地震が起きた場合の原子炉各部(例えば基礎版上、建屋1階、3階、屋上等)の加速度をあらかじめ想定しておく。女川原発の場合、基礎版上での加速度512ガルを想定していたが、今回の地震での観測値は基礎版上で573ガルであった。これは、基準地震動の想定が甘かったことを示している。

 

2014年5月25日 (日)

福井地裁 大飯原発運転差し止め訴訟 原告勝訴

 5/21、大飯原発3・4号機をめぐり、住民らが関西電力に運転の差し止めを求めた訴訟において、福井地裁の樋口英明裁判長は運転差し止めを命じる判決を言い渡しました。

 関電が想定した基準地震動より大きい地震動が発生し、施設に影響を与えるか、災害時の過酷事故対策が十分に講じられているかなどが争点でした。福井地裁判決は「具体的な危険性があれば、運転が差し止められるのは当然。原発は社会的に重要だが、電気を生み出す一手段にすぎず、人格権より劣位にある」と指摘しています。

 また、5/1の報道において、長沢啓行教授は地震動の評価について「手法が古すぎ、過小評価している。愕然とした。基準地震動は関電の主張する700ガルに対し、1500ガル以上とすべき。」と述べています(ものぐさ 長沢教授 大甘な大飯・高浜・川内原発の基準地震動)。

 基準地震動について原告は何を訴えたか。「大飯原発3・4号機差し止め請求裁判」に提出された準備書面19から見てみます。

・ 観測された最大地震加速度が設計地震加速度を超過する事例
は、福島第一原発と女川原発における2ケースも含めると、平成17(2005)年以降に確認されただけでも5ケースに及んでいる(ものぐさ 長沢教授 大甘な大飯・高浜・川内原発の基準地震動)。超過頻度を1万年に1回未満として設定している欧州主要国と比べても、10年間に5回も基準地震動を上回るような事態は異常である。

・ 従前の原発における基準地震動の想定は、著しく過小評価であった。過去に発生した地震の平均像で基準地震動を想定していたことが、超過頻度が5回もあった最大の原因である。平均像で想定を行っているのであるから、現実に発生する地震動が、しばしば基準地震動を超えるのは当然のことである。現在も相変わらず、平均像を基本として地震動を想定をしようとしており、従来と何ら変わりがないものとなっている。

・ 新規制基準のうち基準地震動の想定や耐震設計に関する「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」を見ると、地震動の想定手法は福島原発事故以前と同一で、従前の考え方をほぼ踏襲しており、一部ではむしろ後退しているところも存在する。

・ 「過去最大」と言っても、それはたかだか数100~2000年程度の知見でしかない。「過去最大」を超えることも十分にあり得る。耐震設計の要である基準地震動 をどこまで上回る地震動が原発を襲うかわからないのであるから、そもそも耐震設計のしようもない。 

 要約すれば、準備書面19は、「福島原発事故以前も以後も、過去に観測された地震波を用いて策定される基準地震動は平均値でしかなく、この平均値を超える地震動に見舞われるのは当然である。また、過去最大の地震動を想定したとしても、これを超えることは十分にあり得る。」と主張しています。よって、基準地震動の策定は不可能であり、原発の再稼動は不可能であると言っています。

 それでは、基準地震動について裁判所の見解はどうか。判決文を見てみます。

・ 1260ガルを超える地震によって冷却システムは崩壊し、非常用設備ないし予備的手段による補完もほぼ不可能となり、メルトダウンに結びつく。この規模の地震が起きた場合には打つべき有効な手段がほとんどないことは被告において自認しているところである。

・ 過去の地震データは極めて限られたものであり、大飯原発には1260ガルを超える地震は来ないとの想定は不可能である。岩手宮城内陸地震では4022ガルの記録もあり、1260ガルを超える地震は大飯原発に到来する危険がある。

・ 1260ガルを超える地震が来ない限り、炉心損傷には至らないと関電は主張するが、複合的な過酷事故に従業員が対応できるか、以下に示すように、なはだ疑問である。

①従業員が少なくなる夜間の突発的な危機的状況に直ちに対応できる人員は確保されるのか、指揮命令系統の中心となる所長は常にいるのか。

②事故の進行中にいかなる箇所にどのような損傷が起きており、それがいかなる事象をもたらしているのかを把握することは困難である。

③全交流電源喪失から炉心損傷開始までの時間は5時間余であり、炉心損傷の開始からメルトダウンの開始に至るまでの時間は2時間もない。適切な対応は期待できない。

④非常事態に備えてある空冷式非常用発電装置だけで実際に原子炉を冷却できるかどうかをテストするというようなことは危険すぎてできようはずがない。

⑤何百メートルにも及ぶ非常用取水路が一部でも700ガルを超える地震によって破損されれば、水冷式の非常用ディーゼル発電機は稼動できなくなる。

⑥放射性物質が一部でも漏れればその場所には近寄ることさえできなくなる。

⑦大飯原発に通ずる道路は限られており施設外部からの支援も期待できない。

・ 700ガルを超える地震が到来することはまず考えられない、と関電は主張するが、全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの問に到来しているという事実を重視すべきである。

・ 基準地震動である700ガルを下回る地震によって外部電源が断たれ、かつ主給水ポンプが破損し、主給水が断たれるおそれがある。

・ 主給水ポンプは安全上重要な設備ではないから基準地震動に対する耐震安全性の確認は行われていないと関電は主張するが、主給水ポンプは、冷却機能を維持する要であり、このような設備を安全上重要な設備ではないとするのは理解に苦しむ。

 福島原発事故の原因はわからず、放射能は広範囲に拡散し、16万人が故郷に帰還できず、多くの小児は甲状腺がんを発症しています。それにも関わらず政府は再稼働に前のめりです。多くの国民は「よくぞ言ってくれた」と言う心境です。判決で言っていることは至極当然で単純明快です。

 事故原因も不明な状態で、規制委員会は「再稼動」を前提とした規制基準を作成し、その基準に適合しているか審査しています。安全を審査しているわけではありません。この規制基準の適合を受け、政府は「原発は安全である」と判断して、自治体や周辺住民に再稼動の圧力をかけてきます。周辺住民の緊急避難計画は不完全で、決して住民を守るための計画でないにも関わらず、原発立地自治体は再稼動を承認する。こんなストーリーが進行中です。政府の再稼動要請には、上記のような理論で対抗していきましょう。

 この判決は、全国で提訴されている脱原発裁判に大きな影響を与えるでしょう。大飯原発裁判に続けと。

 

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