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2014年6月 8日 (日)

「原発の安全神話」から「放射線の安全神話」へ

 「原発の安全神話」が崩れた今、原発推進者は、「放射線の安全神話」を唱え始めました。

 <原発の安全神話とは何か>

 電気事業連合会のHPを見てみましょう。

・ 原発には、放射性物質を閉じ込め、外へ出さないために、「5重の壁」というしくみがあり、第1の壁はペレット、第2の壁は被覆管、第3の壁は原子炉圧力容器、第4の壁は原子炉格納容器、第5の壁は原子炉建屋で構成されています。

・ 放射性物質の外部への放出を防ぐため、被膜管で覆われた核燃料の外は、さらに原子炉圧力容器、原子炉格納容器、原子炉建屋で囲まれており、放射性物質を閉じ込め、万が一の場合にも、外に出さないようにしています。

 福島原発では「5重の壁」が役にたちませんでした。放射能を撒き散らしたにも関わらず、上記のような説明が性懲りもなく載っています。謝罪の言葉も訂正もありません。面子なのか、誤りを認めたくないのか、理解しがたい団体です。今回の福島原発事故で、明らかに「原発の安全神話」は崩壊しました。

<原子力規制委員会の見解>

・ 再稼動させるために規制基準を作り、その基準に適合しているかを判断します。

・ 放射能が外部に漏れることへの対応として、シビアアクシデントを規制基準に織り込みました。「原子炉、格納容器、使用済み燃料貯蔵プールが著しい破損に至るのを防止する対策を講じなさい」と規制基準は要求しています。しかし、大量の放射性物質が放散され、放射線被曝による災害が周辺公衆に対して及ぶことのリスクを同委員会は認めています(残余のリスク)。溶融燃料を冷やすための最後の手段は放水砲です(ものぐさ 原発 新安全基準骨子にパブリックコメントを(シビアアクシデント))。「残余のリスク」を書き入れることで、同委員会は事故が起きても無罪放免です。一方、放射能が漏れたときの、住民の緊急避難計画は、基本となる考え方のみ示し、後は自治体に丸投げです。自治体が作るずさんな計画で住民は右往左往し、被曝してしまいます。

<被曝限度の変更>

 福島原発事故前後で被曝限度量は変更されました。

・ 平常時の公衆の被曝限度量は1ミリシーベルト/年。5.2ミリシーベルト/年の場所を放射線管理区域と定め、定められた労働者以外の立ち入りは禁止されています。ところが原発事故後には、被曝量20ミリシーベルト/年の場所へ住民が帰還することを国は認めたのです。復旧期の被曝量を20ミリシーベルト/年と定めているICRPの規定に準拠したのです。復旧期とは「放射線のコントロールは取り戻したものの、その場に放射性物質が残ってしまった状況」を指します(ものぐさ 避難指示解除 都路地区)。損害賠償金を少なくするためにも、住民を帰還させて除染したという印象を国民に与えるためにも、福島原発事故をなかったものと思わせるためにも20ミリシーベルトは好都合な数値だったのでしょう。20ミリシーベルトは国民の健康を第一に考えての被曝基準ではありません。チェルノブイリ原発事故により放射線被害を受けた市民の保護に関する「チェルノブイリ法」は、①年間追加被曝線量5ミリシーベルト超を「移住義務地域」、同1ミリシーベルト超~5ミリシーベルト以下を「移住権利地域」と定め、被災者の健康管理や年金増額などの支援策を国は実施しています。

・ 原発労働者の通常の被曝量限度量は1年間で50ミリシーベルトかつ5年間で100ミリシーベルトであるが、福島原発で緊急作業に従事する原発労働者の被曝量を、原発事故後には50ミリシーベルト/年から100ミリシーベルト、更に250ミリシーベルトに引き上げました(電離放射線障害防止規則7条の改正)。福島原発事故を収束させるためにも、原発労働者の確保は必要であり、それを確保するために被曝量の限度を上げる状況は理解するが、そこには原発労働者の健康という観点が抜け落ちています。原発労働者の健康が守れるのか。癌等の発症を未然に防止するためにも、発症後の治療が適切に行なわれるためにも、原発労働者の治療費負担を少なくするためにも、国の誠意ある対応を望みます。

・ 飲料水のWHO基準は10ベクレル/kg。日本の輸入食品基準は370ベクレル/kg(注1)でした。福島原発事故後に定めた放射性セシウムの新基準は、飲料水で10ベクレル/kg、乳製品で50ベクレル/kg、米・大豆・肉で500ベクレル/kg、それ以外の食品で100ベクレル/kg(但し、乳児食品は50ベクレル/kg)です。370ベクレル/kgに比べて妥当な数値のように見えるが、大和田らは「子供が毎日10ベクレルのセシウム137を摂取すると、600日目には、セシウム137が体内に20ベクレル/kg蓄積する。体内蓄積量20~40ベクレル/kgで心電図異常・高血圧・白内障等の症状が現れている。」と警告しています(ものぐさ 内部被曝評価はシーベルトではなくベクレルで)。

 日本弁護士連合会は「国が定めた埋め立て基準8000ベクレル」の数値に関して、「100ベクレル/kg 以上のセシウム137は放射性廃棄物であり、低レベル放射性廃棄物処理施設で長期間、厳重に保管することが求められている」と国に意見書を提出しました(ものぐさ 埋め立て基準 8000ベクレルは大丈夫か)。放射性廃棄物程度の食品を摂取することが許されたのです。まさに、健康よりも「ご都合主義」が顔を出しています。

<「放射線の安全神話」への誘導>

・ 20ミリシーベルト/年が50年続いた場合の癌に対するリスクは5.5%で、これは一次産業リスクと同じ(注2)。・・・某東大教授

・ 内部被曝は筋肉にとどまる。摂取制限値の食品を取り続けたとしても不慮の事故のリスクと同じ。この10倍のものを飲食しても、癌のリスクは0.25%で大きな影響ではない(注3)。・・・同上

・ 内部被曝により放射線が細胞に照射されるが、細胞死により癌化のリスクは低下する(注4)。・・・某学者

・ ある程度の放射線を浴びたほうが健康に良い(注5)。

・ 野菜くずはカリウム40を含んでいるが単なる生ゴミ。放射性物質がほんの少し付着した廃材を特別に危険なものとみなす必要はない(注6)。・・・某学者

・ 100ミリシーベルトの放射線を過度に怖がることはない(注7)。それ以下で事実上問題になるとすると、妊婦、乳児だけ。・・・某医師等

・ 世界平均の年間被爆量2.4ミリシーベルトに比べ、日本は1.5ミリシーベルト。癌患者が多いというデータはない。成田からニューヨークを航空機で往復すると0.2ミリシーベルト。7往復すると日本国内の年間被爆量に達する。商社マンに癌が多いわけではない。ラジウム温泉で有名なイランの保養地では年間200ミリシーベルト。癌の増加は認められていない。「1ミリシーベルトを超える被曝は危険だ」には科学的根拠はない(注7)(ものぐさ 日本人の自然被曝 5ミリシーベルト)。・・・某医師

・ 塩も一日に7g程度なら一生摂りつづけても害はありませんし、むしろ適量は摂取しなければなりませんが、一度に200g食べると死んでしまうのです。実は放射線も同じで、人間が生きていく上で一定量の自然放射能が必要不可欠なのですが、大量に浴びると危険なものになります。人体にも「カリウム40」などの放射性物質が存在し、毎秒約7,000ベクレルの放射線を放出しています(注6)。・・・某社長

・ 悪性リンパの患者100人以上に100ミリシーベルトのX線の全身照射を週3回で5週照射した。合計で1500ミリシーベルトだが、照射しない患者の生存率50%に対して、生存率は84%に向上した。だから放射線は有益だ(注8)。・・・某電力幹部

・ 放射線など怖くない。1000ミリシーベルト/年まではホルミシス領域で、人体に有益な効果が期待できる線量範囲だ。宇宙飛行士は宇宙に行くと元気になって帰ってくる。「ホルミシス効果」といって、①免疫機能の向上、②身体の活性化、③病気の治癒、④強く若々しい身体を作るというものだ(注5)。・・・某電力幹部

・ 「名水百選」に含まれるラドンは13ベクレル/kg。それをみんなが飲んでいる(注9)。・・・某電力幹部

・ 癌抑制遺伝子であるp53が250ミリシーベルトの照射により数倍活性化し、LDAコレステロールの減少、DNA修復活動の活性化、免疫系の活性化がみられた(注10)。・・・某電力幹部

<被曝を危険と唱える有識者の発言>

・ 学童の被曝量が20ミリシーベルト/年に引き上がられたことに関連して、小佐古東大教授は「学者生命を絶たれる」として、官房参与を辞任しました。

・ ICRPは、被曝量を減らす便益(健康、心理的安心感)と放射線を避けることに伴う減益(避難、移住による経済的被害、地域の崩壊や生活の変化に伴う心理的な影響等)を考慮すべきとしているが、便益を最大限享受してきたのが電力会社である。被害者である国民は被曝量を減らす便益を受ける権利を有する。・・・某教授

・ 疫学的に証明されるのを待っていたら手後れになる。・・・某教授

・ (注2)~(注10)の反論。

 (20ミリシーベルト等)国の示す基準は安全を保障するものではなく、国にとっての「ご都合主義」から生まれたもので、健康に影響がないという理屈を都合の良い学説で説明し、国民を誤魔化しているのです。<「放射線の安全神話」への誘導>で主張している専門家など、その最たるものです。

 原発は安全ではなく放射能漏れの恐れがあります。しかし、安心してください。被曝しても放射能なんて怖くはありませんよ。だから、お金のために原発を再稼動しましょうよ。そのようなささやきが聞こえ始めました。

(注1) チェルノブイリ原発事故を契機に定められた暫定基準で、食品摂取量のうち「輸入食品の占める割合35%」から導き出された数値です。370ベクレル/kgの35%である130ベクレル/kgが国民の正味の被曝量です。

(注2) 癌発症に関しては、ICRPの2~8倍のリスクがある。毎年発生する産業リスクと一回の原発事故による癌死者を50年で割って比較するのはおかしい。福島県の200万人が20ミリシーベルト/年を10年間被曝したとすると、ICRPのリスクでも癌死者は2万人以上となる。

(注3) 筋肉だけではなく内臓の各器官に蓄積し、未知な点が多く、癌発症だけにとどまらない(ものぐさ 内部被曝評価はシーベルトではなくベクレルで)。

(注4) 長期的、継続的細胞死は、周辺に炎症を起こし、新たな癌細胞が出現する。ペトカウ効果やバイスタンダー効果を無視するのか(ものぐさ 内部被曝評価はシーベルトではなくベクレルで)。

(注5) ホルミシス効果と言われているが、こういう状態を長期的に続けると慢性炎症という状態になり、癌の前提条件になったり、さまざまな病気の原因となる。低線量の放射線でp38が活性化されると最初は細胞が活性化し細胞が増えたりする。細胞が増えると、細胞が元気になった、ホルミシス効果じゃないかと言う研究者がいるが、増殖が長期に続けば腫瘍です。増殖性病変が15年も続くと悪い変化がでてくる。

(注6) 人工の放射性物質セシウムと自然の放射性物質カリウム40は同じベクレル数でも生体内での挙動が異なる。少量の放射性セシウムのほうが放射性カリウム40より危険である。人の誕生以来、体内に均一に存在する放射性カリウム40の量は4000~6000ベクレルと言われている。放射性カリウム40(半減期は12.5億年)は、生物にとって重要な元素であるから否応なしに体内に入ってくる。しかし放射性カリウム40の代謝は早く体内に蓄積することはない。このような生物の機能は進化の過程で獲得してきた適応の結果なのである(ものぐさ 地層処分 楠戸伊緒里氏の資料より)。放射性カリウム40とセシウム137を同一視している。

(注7) ICRPでさえ、20ミリシーベルト/年での癌発症確率は500人に1人と言っている。

(注8) 癌患者へ照射すれば、癌細胞が縮小するのは当然。死ぬかも知れない患者の生存率が向上したことをもって、放射線が正常な人に有益であると言う見解はおかしな論理だ。1回の照射時間が記載されていない。1時間の照射なら、1500ミリシーベルト/年だが、1分間なら25ミリシーベルト/年、10秒間なら4ミリシーベルト/年だ。単位がないので何を言っているのか判らない(ものぐさ)。

(注9) 子供が毎日10ベクレルのセシウム137を摂取すると、1年の体内摂取量は3650ベクレルだ。600日目には、セシウム137が体内に20ベクレル/kg蓄積する(生物学的半減期は40日)。これは注意レベルだ(ものぐさ 内部被曝評価はシーベルトではなくベクレルで)。13ベクレル/kgの名水を1年間10kg飲んだとしても、体内摂取量は130ベクレル/年にしかならない。少量しか飲まない名水を引き合いに出して放射能は安全だと誘導している(ものぐさ)。

(注10) 低線量被曝による研究では、「チェルノブイリ膀胱炎」から「膀胱癌」への進行が明らかになった。この研究において、細胞死や修復を行なう遺伝子p53もまた、放射線で壊され、癌化が促進されることが明らかになった。

 

 

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